WIMBLEDON LEGEND STORY〜ウインブルドンを彩った選手たち〜



WIMBLEDON
THE SCENE
2008男子シングルス決勝
ラファエル・ナダル 3-2 ロジャー・フェデラー
6-4 6-4 6-7(5) 6-7(8) 9-7

2度と見ることはない 暗闇の死闘 



 数多ある名シーンや名勝負の中で、なぜこの試合のこの瞬間なのか。

 歴史に残る劇的な試合を目の当たりにすると、「こんなドラマはもう2度と生まれないだろう」という感激と心地よい余韻に包まれる。だが、必ずや近い将来、その試合に匹敵するシーンや感動に遭遇することができる。それがウインブルドンであり、そうした名勝負が連なっていくことで大会の伝統が織り成されていることは、昨年のノバク・ジョコビッチとロジャー・フェデラーの男子決勝であらためて証明されたと言える。

 ただ、これだけ暮れたセンターコートに無数のフラッシュが白く瞬くことは、もう2度とないのかもしれない。

 6連覇を狙うフェデラーに、過去2年、そのフェデラーにファイナルで屈していたラファエル・ナダルが挑んだ2008年の男子シングルス決勝。2セットダウンの崖っぷちから2つのタイブレークを制して執念を見せたフェデラーを、ナダルがファイナルセット9-7でねじ伏せた激闘は、それだけで名勝負数え歌のひとつに連なるだけの興奮と感動を与えるものだった。

 05年にロラン・ギャロスで初出場初優勝を飾ったナダルは、翌06年に連覇を果たし、直後のウインブルドンで初の決勝へ進出。彼を“クレー専門”だと考えていた人々を驚かせ、「まぐれ」と囁く人たちを翌年もファイナルへ進むことで黙らせた。それでも越えられなかった王者フェデラーの壁をついに打ち破り、ラケットを放り投げて仰向けで大の字に倒れる姿を見たとき、誰もが歴史の変わり目に立ち会っていることを感じたはずだ。

 ナダルは翌09年にオーストラリアン・オープンを、10年には初のUSオープンを含む3つのグランドスラムを制し、ジョコビッチとアンディ・マレーを巻き込みながらフェデラー一強時代から“ビッグ4”の時代へと移り変わらせていく。

 08年決勝の4時間48分という時間は、試合のランニングタイムに過ぎない。第3セット途中の1時間20分を含め、2度の中断が挟まれていた。ウインブルドンお決まりの不安定な雨空が、午後2時37分に始まった試合を夜の9時が過ぎても決着の時を迎えることのない死闘へと変えていた。ボールはほとんど見えない。それでも両者はそのことを口に出すことなく、全神経を研ぎ澄ませながらハイレベルなラリーを繰り広げていく。その事実が、観る者の心を揺さぶり続けた。

 翌09年、ついにウインブルドンでも屋根付きの新センターコートがお披露目となった。大会6日目の第3試合、雨で屋根が閉じられたマレーとスタン・ワウリンカの一戦はフルセットにもつれ込む熱戦となり、日没であたりが暗闇に包まれても、試合は明るい照明に照らされながら続いていた。

 これからもウインブルドンでは数々の名シーンや名勝負が織り成されていくだろう。だが、暗闇の中で芝の上に横たわる勝者の姿を見ることは、もうないのかもしれない。

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